短歌と富士山の今
[2006-12-20 23:34:14]

「富士山って、いつも雪をかぶっているのかと思った」夏、ふもとから山頂まで黒い地面をあらわにしている富士山を見て、驚いてこう言った人がいるそうだが、確かに富士山の頂上といえば「白」のイメージが先行している。風景画に見かける富士も白い頂上が多いように思う。今年は10月7日に初冠雪を記録した富士山。現在、山頂は写真のとおり。中央は火口で、麓からは見えないが中まで真っ白、6月頃まで白色支配の世界となる。
文学の世界にも白い富士を詠うものが多い。最も有名なものは、百人一首にもある「田子の浦に うち出てみれば白妙の 富士のたかねに 雪は降りつつ」であろう。富士山頂の上空にかかる雲から、キラキラと輝く白い雪が山頂に降る風景。想像するとウットリする、素晴らしい短歌である。しかし残念ながら、これは想像の世界に過ぎない。富士山頂に雪が降るとき、山頂は雲に包まれてしまい、麓から頂上を見ることは難しい。
それでも見たい、と願うのであれば、雲の内側に入ってみてはどうか。富士山頂にいれば見られるのではないか。と考えてはみたものの、こちらもダメなよう。雪国生まれなら分かるだろうが、どんよりとした空を背景に降る大粒の雪は、白と言うより灰、あるいは黒と表現する方がピッタリくる。雪が白いのは、背景が青だったり、黒だったりするからである。
富士山頂の雪はまぎれもない現実。一方で、「富士のたかねに雪は降りつつ」は、全くの想像と言えそうである。
(小埜佳典)





